三題噺[雪][箱][夜]
むかしむかしあるところに、それは可愛らしい女の子が居ました。
女の子のなまえはゆきちゃん。
小さなころにりょうしんを亡くした彼女は、ただひとりの身寄りであるおばあちゃんと、おもてむきはとっても仲良しです。優しいおばあちゃんですが、かねをだししぶるきらいがあるのがたまにきず。がくれきの無いゆきちゃんは、せいてきないみで花を売って暮らしています。
ゆきちゃんには、そのすじのしゅみをもつたくさんのパパがいます。せいてきないみです。
こどくに耐えながらも働くひたむきなすがたと、じつねんれいはともかく幼い容姿、それにゆきちゃんのお気に入りの白いパーカー。みんなからは雪ずきんの愛称でしたしまれ、がっぽりしめいりょうきんを集めているのでした。
「これっくらいの、おべんっとばっこに、どーくぶーつどーくぶーつちょっとつーめてっ」
ある日のことです。ゆきちゃんはいつものようにランチボックスいっぱいのお弁当にびりょうのもるひねを混ぜ、おばあちゃんのところにやってきました。もるひねは腰の悪いおばあちゃんの痛み止めのおくすりですが、量を間違えればしにいたる危険なやくぶつです。ゆきちゃんはむようなせっしょうはこのみません。確かなきんせんてきメリット、つまりはおばあちゃんのばくだいないさんをころがりこませる為には、けいかくせいがだいじなのです。
まだ辺りは真っ暗。しんやからあけがたにかけての人通りの少ない時間がねらいめです。長い時間をかけて少しずつどくをもる、びょうしに見せかけたけいかくてきはんこうとはいえ、すがたをもくげきされないに越したことはありません。ゆきちゃんはむようなせっしょうはこのまないのです。
「おばあちゃあん、ゆきが来たわよお」
玄関から声をかけるゆきちゃんですが、へんじがありません。
「あのくそばばあ、わたしの声をむしするなんていいどきょうね」
むっとしたゆきちゃんは、おばあちゃんにむじひなせいさいをくわえるために家へと入ります。
「ゆきかい?ちょっとこっちへ来ておくれ」
ゆきちゃんのさっきを感じ取ったのか、寝室から声が聞こえました。ゆきちゃんは、あのろうがいめ、やぬしがでむかえるのがすじだろうと思ったのでむししました。ゆきちゃんはせけんのどうりにきびしいのです。
「ゆきや、おこづかいをあげるからこっちへおいで」
ゆきちゃんは寝室に行くことにしました。
「おばあちゃん、どうしたの。しんやとはいえ、らいきゃくにはれいをつくすものよ。おこづかいはどこ?」
ゆきちゃんはベッドから出てこないおばあちゃんに語りかけます。おとなのせかいでは、じょうげかんけいをはっきりさせなければなりません。
「調子を崩してしまってねえ。ゆきや、もっと近くに来ておくれ」
そう返事をするおばあちゃんの声は、確かにずいぶんとしわがれています。近くに歩み寄ったゆきちゃんは、頭まですっぽり布団をかぶったおばあちゃんのようすが普段と違う事に気が付きました。
「あらおばあちゃん、なんて大きな耳だこと」
「昨日、はりきりすぎたのさ。この歳でメイニアックなプレイはするものじゃないねえ」
「あらおばあちゃん、なんて大きな目だこと」
「熟女ものにも時代の波が来たのかねえ」
「あらおばあちゃん、なんて大きな手だこと」
「ろーしょんを落とすのに洗いすぎてふやけてしまったよ」
「あら、おばあちゃん、でも、なんておそろしい大きなお口」
「それはお前を……食べるためさー!」
そういうがはやいか、声の主は布団を跳ね飛ばし飛び掛ってきました。なんということでしょう、ベッドに居たのはおばあちゃんに化けたオオカミだったのです。
「……さて、どうしてくれようかしら」
とりあえずとくしゅけいぼうでオオカミをのしたゆきちゃんは考えます。ゆきちゃんがじかんをかけてころすよていだったおばあちゃんは、オオカミに食べられてしまったようです。しかし、かがくばんのうのげんだいしゃかいで、オオカミが食べた、だなんて突飛にもほどがあります。
「それに……」
ゆきちゃんは手元の箱を見下ろします。そうです、このランチボックスの中にはきていりょうを少しばかり上回るもるひねがこんにゅうされているのです。あやしまれる程の量ではないとはいえ、こんな状況ではどう転ぶことやら分かりません。こっかけんりょくをだまくらかすにはもうひとおし、ゆきちゃんがひがいしゃであるというアピールポイントが欲しいところです。
ゆきちゃんが頭を抱えたその時でした。
「んんあああんんっハァ!!!」
茶色い声と共に、それはそれはきもちのわるい男がふほうしんにゅうしてきました。
「んっハァ!!」
ゆきちゃんはとりあえずその男をなぐりたおし、髪をつかみあげ顔をあらためたところ、見覚えのある顔でした。彼はゆきちゃんのパパ、そしてゆきちゃんのストーカーの二足のわらじをはくじょうれんきゃくだったのです。
誰であろうとげんばを見られたからにはけすしかありません。
ゆきちゃんの無実のしょうにんに仕立て上げる事も考えましたが、この男にじりをべんしきするのうりょくが認められるとは思えません。それにこの男はたいそうきもちがわるいので、かねてよりゆきちゃんは(いつかころそう)と考えていたのです。
でも、部屋を見回してきょうきをせんべつするゆきちゃんの頭に、突然良い考えがひらめいたのです。
「そうだわ、こいつになすりつけましょう」
ゆきちゃんの描いたストーリーはこうです。
いつものようにいっかだんらんを楽しむゆきちゃんたちのもとに、一人のへんたいがオオカミを従えて現れました。へんたいはオオカミにおばあちゃんを食わせ、ゆきちゃんにせいてきぼうこうを加えました。オオカミを使った理由はわかりません。せいしんにいじょうをきたしていたのかもしれません。
しかしへんたいはことが終わると共におちつきを取り戻し、そこにあったお弁当をむさぼります。はげしい運動をした後ですし、おなかが鳴る事もあるでしょう。食べおわったらだいにラウンドなのです。
しかしそのおべんとうには、おばあちゃんの痛み止め、もるひねが入っています。調子をくずしたへんたいのすきをついて、ゆきちゃんはへんたいをぼくさつ、不幸なゆきちゃんはおばあちゃんを喪いながらも、なんとか生き延びるのでした。
ゆきちゃんの体の中に残ったいりゅうひん――もちろんせいてきないみですが――を調べれば、ゆきちゃんは立派なひがいしゃ、せいとうぼうえいです。それでもぽりこうどもが騒ぐのなら、せいはんざいという名のタブーをふりかざして、せけんを味方につけるまでです。おばあちゃんのいさんも手に入りますし、完璧なすじがきではありませんか。
「そうときまればぜんはいそげよ」
ゆきちゃんはつぶやきます。ぜんあくとはひじょうにりゅうどうてきながいねんなのです。
きぜつした男の頬をはりたおして気付けをしながらゆきちゃんは言います。
「ああ、めがさめたのね。ありがとうパパ。あなたのおかげでオオカミにおそわれずにすんだのよ」
「ん……っハァ?」
男はふしんがっています。しかしかんがえるよゆうをあたえてはなりません。
「おれいにわたしのてづくりのおべんとうをどうぞ。デザートは……ね?」
「んんっ!!!んハァ!!!」
きゅうソれんのおんなすぱいもかくやという名演技で男をろうらくしたゆきちゃんは、筋書き通りに男にお弁当を食べさせ、デザートをごちそうするのでした。せいてきないみです。
「ん……ハァ……」
ゆきちゃんは満足げな顔をしてピロートークに入ろうとする男をせいしして、しめいりょう、とくべつプレイりょうきん、それにストーカーのいしゃりょうをちょうしゅうしました。よのなかに無料というがいねんはそんざいしないのです。
「ありがとうパパ。もうようずみよ」
もうすっかりよていどおりに男をぼくさつし、けいさつにつうほうするゆきちゃん。まっしろなパーカーが、かえりちで赤く染まった夜でした。
こうしてゆきちゃんは、おばあちゃんのいさんと、ひげきのヒロインの肩書きを同時に手に入れることができました。ゆきちゃんはさつたばのプールにつかり、おさつに火をつけて煙草をふかしながら週刊誌を眺めます。紙面には
『深夜の凶行!雪ずきんを救った愛の小箱!』
という煽り文が踊っています。ゆきちゃんを救ったのがおばあちゃんへのお弁当というのが、ことのほか世間にはうけが良いようです。
ふーっ、と煙を吐いてから、ゆきちゃんはひとりごちます。
「あいのこばこ。すてきなひびきね」
めでたしめでたし。