三題噺[タンポポ][猫][世紀末]
時は199X年、世界は核の炎に包まれました。
それはもう恐ろしい炎で、何もかも焼けてしまいました。
女の子がいました。女の子は名前をシンケといいます。
シンケには、ウロという名前の友達がいます。ウロはとてもふわふわの毛を持つねこで、シンケはウロを抱っこするのが大好きでした。
ふたりは一緒にたんぽぽを摘みに、家の裏の丘に来ていました。シンケはウロのようにふわふわしている白い綿毛のたんぽぽが大好きだったのです。
あたりはまっくらな時間でしたが、空を見ればたくさんの星が照らしてくれるので、シンケもウロも怖くはありません。
たくさんの白いたんぽぽを摘み終わったころ、ウロが言いました。
「シンケ、あっちにもっとたくさんのたんぽぽが咲いてるよ」
ウロが指差したほうを見れば、なるほど、きれいなたんぽぽが一面に広がっていました。
「わあ、ありがとう。わたし、もっともっとたんぽぽを集めて、お部屋をたんぽぽの国にしてみたいの」
シンケは言いながら、ウロを抱き上げて走り始めました。
ずどん。
次の瞬間、シンケの体は浮き上がりました。大きな音がしました。遠くで何かが落ちたような音です。
ずどん。
びっくりして転んでしまったシンケは、ウロに聞きました。
「なにかしら。たんぽぽの女神様が怒っているの?たんぽぽを摘みすぎだって」
ウロはそのふかふかの頭を振りながら言いました。
「何かいやな気持ちがする。シンケ、どこかに隠れよう」
ふたりはあたりを見回しました。すると、丘を下ったところになにやら小さなドアが見えるではありませんか。ウロは嫌な予感がするので、シンケはたんぽぽの女神様が怖いので、それはもう大急ぎでドアの中へ駆け込みました。
ずどん。
また大きな音です。すばやくドアを閉めたシンケは、勢いあまってまた転んでしまいました。ウロを抱いていたので痛くはありませんが、どこかに落ちてしまったようです。外の音が小さく聞こえます。
「わたし、とんでもないことをしてしまったわ。だってこんなにたんぽぽを摘んだのよ」
シンケは腕いっぱいに抱えたたんぽぽを見つめながら言います。ウロはたんぽぽと一緒に抱きかかえられているので、むくむくの毛がいっそうふわふわになっています。
「夜だからだいじょうぶだと思ったのに。女神様はいつ眠るのかしら」
床は冷たくて、固くて、とても狭い場所です。でもふわふわで暖かいウロを抱っこしていると、シンケは眠くなってきました。ウロは安心したのか、もう眠っています。
「わたし、音が止んだらたんぽぽを植えるわ。たんぽぽ畑を作るの。女神様も許してくれるかしら」
ずどん。ずどん。ずどん。
時は199X年、世界は核の炎に包まれました。
それはもう恐ろしい炎で、なにもかも焼けてしまいました。
でも、女の子と、むくむくのねこと、白い綿毛のたんぽぽだけは焼けませんでした。